栗原一朗

栗原 一朗
「永遠~Engel Song~」



『悠久の時を越えて響き渡る、天使の歌声』

三枝成彰氏作曲、大友直人氏指揮によるカンタータ『天涯。』にてソロを歌い上げた「天使の歌声」を持つ栗原一朗。
その温かくも透き通った繊細なボーイソプラノを詰め込んだ、奇跡のCDが遂に誕生。
ピアノ伴奏に数々の国際音楽コンクールで受賞をした篠崎朝子氏を迎えた永久保存版! (amazonの紹介文より)

2014年5月10日発売
「永遠~Engel Song~」
ボーイソプラノ 栗原一朗
税込1500円

【収録曲】

1、神の御子は
2、Ave Maria
3、Pie Jesu
4、Panis Angelicus
5、Amazing Grace
6、Walking In The Air
7、You Raise Me Up

 なお、試聴は、下記のアドレスでできます。
http://youtube/NWfKvXn2QEs

 これら7曲は、平成25(2013)年12月23日 東京ヴィヴァルディ合奏団 第14回ファンタジックなクリスマス 〜天使の秘密〜 でも歌われたものですが、この日サントリーホールでこの歌に接した人は約400人。CDでは、どのように歌われているでしょうか。CDレポートは、後日聴いてから発表します。

「永遠~Engel Song~」発売を記念して、オフィシャルサイトが立ち上がりました。
Profile  Discography  Music Video  Photo Galleryから構成された情報満載のホームページです。

http://kckuriamazon.wix.com/ichiro-kurihara

  「永遠~Engel Song~」に寄せて

私は時々「ボーイソプラノ」や「少年合唱」のキーワードでYoutubeを検索することがあります。それは、もう3年も前になりましょうか。「我楽多荘」という信州の庭園が美しい宿や伊那の山並みを背景にIchiroという名の9歳の少年が歌う「歌の翼に」の動画を発見しました。19世紀の初めにハインリッヒ・ハイネがまだ行ったことのないガンジス川のほとりの赤い花が咲く園に憧れて、想像して書いた詩にフェリックス・メンデルスゾーンが作曲したこの曲をあくのない清純な声で流麗に歌う日本には珍しいヨーロッパ系の歌声をもった少年は、どんな少年だろう。想像は膨らんでいきました。Youtubeの動画は、それからも不定期的に次々と更新されていきました。デュエットを歌う姿が映されたとき、Ichiro君たちは、手を後ろに組んで歌う姿からフレーベル少年合唱団の団員ではないだろうかという想像が頭に浮かびました。毎年平日に東京で行われるフレーベル少年合唱団の定期演奏会に仕事を休んでまで行くことのできなかった私は、10数年前よりビデオやDVDを購入することで定期演奏会を鑑賞していました。DVDの最後に表示される団員名から、この少年は栗原一朗君に間違いなかろうと思うようになりました。それから2年、Youtubeにアップされる歌声は、次第に美しい声で歌うだけでなく、歌のもつドラマ性を増していきました。

 それは、天啓とも言える出会いかもしれません。私に多少の時間のゆとりができた平成25年7月、六本木男声合唱団倶楽部のコンサートのカンタータ「天涯。」のボーイソプラノのソリストとして初めて栗原一朗君の生演奏に接する機会を得ることができました。さらに、10月にはフレーベル少年合唱団のリーダーとして、12月には東京ヴィヴァルディ合奏団のクリスマスコンサートのソリストとして。約半年という短い間に3回も。ボーイソプラノは、変声期の直前が最もよく響き美しいと言われています。まさに、燃え尽きる前のろうそくの輝きにも似て。もしも、12月のコンサートがボーイソプラノのソリストとして歌う最後の機会ならば、再び生演奏で栗原一朗君のボーイソプラノに直接接することはなかろうと思っていたところ、ほぼ同時期にCDとして歌声を残したということを知りました。

 7曲からなる「永遠~Engel Song~」と名付けられたCDには、東京ヴィヴァルディ合奏団のクリスマスコンサートで歌われた歌声が刻まれています。それは、3歳からフレーベル少年合唱団で学び続け、周囲と調和しながら自分を活かすように努めてきた学びの成果として、得意とする清澄で透明度の高い高音域だけでなく、低音域の充実を含め、一人の少年の歌声の成長を見ることができます。最初の5曲の宗教曲では「祈り」という歌の本質が伝わってきますが、このCDの白眉ともいえるのは「Walking In The Air」や「You Raise Me Up」といった比較的最近の曲で、そこでは、歌の主題やドラマ性が浮き彫りとなっており、ボーイソプラノとしての栗原一朗君の歌の集大成と言えるものに仕上がっています。また、ピアノ伴奏の篠崎朝子氏は、これらの曲を陰影の深いものに高めています。

 1、神の御子は(神の御子は 『賛美歌』第111番)
 たいへん古い曲で、10世紀頃フランスの僧侶によって作られたと言われています。原題はラテン語で、「来たれ神へ、忠実なる者よ」という意味です。クリスマスソングの代表の一つですが、このような聖なる曲こそ、清らかなボーイソプラノで歌われることが望ましいと言えるでしょう。一朗君は、日本語と原語で1番ずつ歌っていますが、一節一節を大切に歌っています。

 2、Ave Maria(アヴェ・マリア  バッハ=グノー)
 バッハが、1722年、「平均律クラヴィーア曲集」48曲の第1曲として作曲したハ長調前奏曲をもとにして、グノーが150年後、歌唱部分の旋律を作曲して加えたものです。バッハの曲による伴奏部と、ラテン語祈祷文との美しい調和によって、敬虔な祈りの歌になっている名曲です。一朗君は流麗なだけでなく、深い祈り心を感じる歌を歌っています。

 3、Pie Jesu(『レクイエム』からピエ・イエス ラター)
 ラターの作品は、現代音楽の作曲家でありながら、フォーレの系譜につながる古典的な香りがするのが特色とも言えましょう。「レクイエム」は1985年に発表された作品で、初演にはプラシド・ドミンゴ等も参加しており、CD化されています。第3曲の「ピエ・イエズ」は、天上的な雰囲気もった佳曲で、一朗君の歌は高音になるにつれて輝きを増しています。
 
 4、Panis Angelicus(天使の糧 荘厳ミサ イ長調から フランク)
 「Panis Angelicus」は、「天使の糧」とも「天使のパン」とも訳されますが、フランクが作曲した「荘厳ミサ」の一曲です。旋律の美しさから、この曲だけがコンサートで単独に歌唱・演奏されることが多くあります。一朗君は繰り返しの部分を丁寧に歌うことで一層温和な雰囲気を醸し出しています。

 5、Amazing Grace (アメイジング グレース 讃美歌)
 作詞者はジョン・ニュートン。作曲者は不詳。作詞者のジョン・ニュートンは家庭教育において敬虔なクリスチャンの教えを受けて育ったのにかかわらず、「奴隷貿易」に携わり富を得るようになりました。やがて、それを悔い改悛したニュートンは牧師として生まれ変わり、この曲を作詞しました。この曲は、多くの歌手によって歌われていますが、一朗君は、そのような泥にまみれた曲の背景を全く感じさせない清純な歌を歌っています。ジョン・ニュートンが達した境地とは、このような世界ではなかったでしょうか。
 
 6、Walking In The Air(ウオーキング・イン・ジ・エア「スノーマン」から ブレイク)
 アニメ「スノーマン」から「ウォーキング・イン・ジ・エア」は、雪だるまと少年が手を取り合って夜空を飛びまわりますが、翌朝目覚めたら雪だるまはとけて消えているという「スノーマン」の物語の雪だるまと、ボーイソプラノというやがて消えていく声のはかなさを重ね合わせて、一朗君の哀愁あふれる歌を聴けば、せつないものを感じてしまいます。

 7、You Raise Me Up (ユー・レイズ・ミー・アップ シークレット・ガーデン)
 この曲は、「ロンドンデリーの歌」の旋律をベースに作曲されたと言いますが、哀感に満ちた旋律と「あなたが祈ってくれるから私は強くなれる」と元気を与える歌詞が不思議な融合をして、聴く人のその時の心境によって慰めや癒しだけでなく励ましや生きる勇気を与えてくれる歌にもなるのが魅力的です。リフレインで半音上げて歌うあたりから、この歌は一層心に迫るものになってきます。 


栗原一朗の「ありがとう」(森田和美「千年の渚」より)


 クラシック系の日本の少年のソロがCD化されることは、極めて少ないと言えます。笛、フルート奏者の森田和美氏のアルバム「千年の渚」に収録されている『ありがとう』は、森田和美氏の作詞・作曲によるものですが、この曲の人が生かされていることへの感謝という心を体現するためには、ボーイソプラノこそがふさわしいと考えたのでしょう。フルートの柔らかい伴奏に乗って、抒情的な栗原一朗の「ありがとう」の歌声が、繰り返されます。
 また、この「千年の渚」というアルバムでは、森田和美氏によって篠笛、インディアンフルート、フルート、木の実、アルトフルート、能管など和洋東西のフルート系の管楽器が演奏されていますが、柔らかい音色の楽器と思われがちなフルートやその仲間の楽器たちが、多様な音色や響きを聞かせてくれます。なによりも、雅(みやび)の心が伝わってくる演奏です。

「天涯。」のソリスト聴き比べ

 「天涯。」・・・その曲の名を私は数か月前まで知りませんでした。家庭電器・音楽産業の大手「SONY」の創業者でもある故・盛田昭夫氏を偲んで、島田雅彦の壮大な詩に三枝成彰が作曲したカンタータ。2000年10月に初演されたこの曲は、混声合唱で演奏されていますが、その初演のライブがCD化されています。また、2006年から2007年にかけては、男声合唱版が六本木男声合唱団倶楽部によってが海外公演も含め3度上演されています。中でも2006年2月に行われた六本木男声合唱団倶楽部演奏会のライブはCD化されています。その後、六本木男声合唱団倶楽部によって、最終曲の「第8番」だけが単独に演奏されていますが、2013年7月に全曲が演奏され、これはDVD・ブルーレイ化されました。これらの演奏史を表にまとめると次のようになります。

演奏年月日 指揮 合唱 ソリスト オーケストラ
2000.10.22 大友直人 晋友会合唱団 ルートウィヒ・ミッテルハンマー ジャパン・ヴィルトゥオーゾ・
シンフォニー・オーケストラ
2006. 2. 4 大友直人 六本木男声
合唱団倶楽部
小澤賢哲 東京フィルハーモニー交響楽団
2013. 7. 3 大友直人 六本木男声
合唱団倶楽部
栗原一朗 東京交響楽団

 ここでは、合唱やピアノを含むオーケストラについては論じませんが、ボーイ・ソプラノのソリストについて比較研究してみましょう。

 初演のボーイ・ソプラノのソリストが、ルートウィヒ・ミッテルハンマーになった本当の理由は知りません。しかし、この年来日公演したテルツ少年合唱団のトップソリストであったミッテルハンマーが、帰国後ソリストとして再来日してこの初演にかかわったということは、その実力もさることながら、日本の少年でこの曲のソリストが務まる少年がすぐに見つからなかったという事情もあるのではないでしょうか。このソリストには、ロングトーンの高音が求められるだけでなく、曲全体をリードする歌唱力が求められます。さて、実際の演奏ですが、むしろ金属的な強い響きが持ち味のルートウィヒ・ミッテルハンマーは、むしろそれを抑えてレガート唱で歌い、最後には天に届けとばかり高らかに歌い上げます。しかし、惜しいかな。kやtなどの無声音は日本語の発声が十分習得できているとは言い難いところがあります。それさえ気にならなければ、大変立派な演奏であると思います。(なお、ルートウィヒ・ミッテルハンマーは、現在バリトンとして活躍しています。)

 それから6年たって、TOKYO FM 少年合唱団の小澤賢哲がソリストに迎えられます。「小澤賢哲」その名と歌声を私はTOKYO FM 少年合唱団第22回定期演奏会で聴いています。コンサート会場のエスカレーター前で並んでいると前後に団員のお母さんらしい人が並んでいて、「小澤君の歌声がききものである。」という情報を得ました。事実、そのコンサートの中での独唱曲「オー・ソレ・ミオ」は、くせのない明るい朗々とした歌声でした。この定期演奏会は、「天涯。」の演奏の直後ですから、ほぼ同じ頃の演奏と言えます。さて、CDを聴くと、くせのない明るい朗々とした歌声であるだけでなく、その歌からは温かい慈しみを感じ、癒されます。

 2010年から「第8番」だけを歌い続けてきたフレーベル少年合唱団の栗原一朗が、全曲に取り組んだ2013年7月の演奏では、この少年のもつ声質が「祈り」というこの歌の本質にあっていることが挙げられます。日本では、このような声質の少年は希少です。日本の少年は青竹のようなタイプが多く、同じ系列に当たるソリストを思い出しても、東京少年少女合唱隊の隊員の水谷任佑(フォーレの「レクイエム」のソロをCDに残しています。声はややアルト系)横須賀芸術劇場少年少女合唱団の秋山直輝(実際にソロを聞きました)の声に近いと思います。決して大きな声ではないのですが、その清澄な響きは曲全体を折り目正しい清冽なものにしてくれます。また、品のよい哀愁を感じさせるところもあります。曲想とこの曲におけるボーイ・ソプラノの位置づけを考えたとき、曲と歌い手・栗原一朗の間に至福の関係を感じることができます。平成26(2014)年、この演奏は、DVD・ブルーレイ化され、その演奏に接することができるようになりました。





栗原一朗ソロコンサート

六本木男声合唱団倶楽部第12回定期演奏会
平成25(2013)年7月3日(水)サントリーホール 大ホール


指揮 大友直人 出演 栗原一朗(ボーイソプラノ) 合唱 六本木男声合唱団倶楽部 演奏 東京交響楽団

【第一部】日本の歌 〜故郷、夏は来ぬ、てぃんさぐぬ花、赤い靴、荒城の月、村祭り 待ちぼうけ〜
【第二部】三枝成彰: カンタータ「天涯。」(自由人の祈り)

   「鉄人28号」の合唱団は今

 六本木男声合唱団・・・その名を私は約8年前の映画「鉄人28号」のテーマ曲を歌った合唱団として知っていました。この映画、興業的には成功したとは言えませんでしたが、ただの冒険映画ではなく、池松壮亮演じる正太郎少年の成長物語として描かれているところに目新しさを感じました。だから、テーマ曲の合唱にしても、家庭のDVDから流れる近所迷惑にならない程度の音量の歌声は、半世紀前に「西六郷少年合唱団」が歌ったものが耳の底に残っているから、それが男声で歌われたものという以上のものを感じませんでした。その六本木男声合唱団(正式名称は六本木男声合唱団倶楽部)が、政財界や学界、芸能界で功成り名遂げた人たちの合唱倶楽部であることを知ったのは、それからかなりしてからのことでした。きっと、日本で一番忙しい人たちだろうに、定期的に集まって練習し、定期演奏会をはじめ、コンサート活動もしているということは、きっと少年時代から歌や合唱が好きだった人が集まっているからだろうな。まずは、その歌声を聴いてみよう。
 でもね、このコンサートに行く本当の理由は、ボーイ・ソプラノのソロとして栗原一朗が出演するからだよ。日本で、ボーイ・ソプラノがこのような位置づけで出演することは、極めて希少な例だから。

   日本の歌

 マエストロ 大友直人の魔法の杖のような指揮棒が宙を舞って東京交響楽団による「故郷」の前奏が始まったとき、この曲ってこんな流麗な曲だったのだろうかという嬉しい意外性と共に、歌が始まり、140人余りの男声が揃うと、こんなに壮麗で重厚な合唱が展開されるのかという驚きにも似た気持ちが生じました。「夏は来ぬ」もまた、100年前の日本の原風景が浮かんでくるような感じがしました。予想外だったのは、4曲目の「赤い靴」。舞台の一番奥から黒い服の男たちの中から真っ白い服に身を包んだむしろ小柄な少年が端正な声で「赤い靴はいてた女の子・・・」とせっせつと歌い出すと、こんな細めの声が広いサントリーホールいっぱいに響くということに驚き、心が震えました。これが栗原一朗の生の歌声か。歌の後半は、着ぐるみのうさぎが登場し動作が入る「待ちぼうけ」があったりして、楽しませるという要素も見せてくれました。これらの曲は、観客も知っている曲なので、それをどう表現するかというところに興味がありました。しかし、面白かったのは、小倉淳・露木茂両アナウンサーによる部員の紹介。テノール1・2の高音部とバリトン・バスの低音部に分けて140人余りを紹介し、「はい。」と答えるだけなのですが、目立ちたがり屋もいれば、慎ましやかな人もおり、学級の縮図のようでもあり、まさに男はいつまで経っても少年という感じがしました。

   カンタータ「天涯。」  

 「ぼくは祈っていたんだよ。
  死んだ人があの世で退屈しないように。
  なぜ、地球は丸いか知ってる?
  別れた人同士がまた何処かで会えるように、
  神様が地球を丸くしたからだよ。」 

 第1曲のわずか5行の中に、鎮魂というよりも、別れと出会い、輪廻転生をほのめかす言葉がちりばめられていました。そんな問答歌がボーイ・ソプラノのソロによって歌われ、この壮大なカンタータは始まりました。第1部で断片的に聴いた栗原一朗のボ−イ・ソプラノは、カンタータ「天涯。」では、終始一貫して金属的な響きを抑えていました。それは、この曲全体を折り目正しい清冽なものにしてくれました。私は、この壮大な詩の中で、どこにボーイ・ソプラノが使われているかを追いかけていきました。

 ボーイ・ソプラノのソロは、それからも、
 「千の恨みを買ったとしても。
  住み慣れた土地を追われたとしても、
  愛する者に裏切られたとしても。
  表向き美しい世の中を
  本当に美しくするために
  おまえは歌え。」
と、人生の最大の苦難の中でも美しく生きることの素晴らしさを清澄な響きで歌います。

 ところが、
 「現世で満たされぬ恋人たちの欲望は、
  彼岸に持ち越され」
という詩も登場します。恋もまた欲望と言ってよいのでしょうか。それは、最後まで謎として残りました。

 視覚的には、「白雪王子と140人の大男」という雰囲気のコンサートでありました。
 また、聴覚的には、初めて聴いても耳になじみやすい旋律の部分が多くても、事前に「天涯。」の詩全体を読んでから会場に来たらよかったな。字幕に現れる2行ほどの詩だけを見ていると全体が見えなくなりそうだ。
そんなことを思いながら聴いていると、最終曲が現れました。弦楽器の溜息に導かれながら、ほの暗い合唱が始まると、やがて甘い想い出を奏でるピアノ・ソロの旋律を経て、ボーイ・ソプラノの冒頭の5行が再現されたあと、男声合唱によって雄渾で壮大なフィナーレへとなだれ込みます。そして、最後に再び楚々としたボーイ・ソプラノの一節が。私は、ただその繊細で重厚な調べを追いかけていました。

東京ヴィヴァルディ合奏団 
第14回ファンタジックなクリスマス 〜天使の秘密〜

ゲスト 栗原一朗(ボーイソプラノ) パペットマペット(司会・お話)
平成25(2013)年12月23日(月・祝) サントリーホール ブルーローズ



   副題が示すもの

 東京ヴィヴァルディ合奏団のクリスマスコンサートの正式名称は、「ファンタジックなクリスマス」で、今回14回目を迎えます。開始当初は、ウイリアム・W/スピアマンW 近藤喬之 秋山直輝といったボーイ・ソプラノのソリストをゲストに迎えていましたが、次第に成人の女声やカウンターテノール、J−POP系のヴォーカルと移っていきました。それは、クリスマスコンサートにふさわしい声質をもった正統派のボーイ・ソプラノのソリストを得ることが日本においては難しいということも、その一因ではないでしょうか。今回フレーベル少年合唱団の栗原一朗をソリストに迎えたのは、ヨーロッパの聖歌隊のソリストを思わせる声質や、三枝成彰の「天涯。」等のこれまでのコンサートにおける実績が評価されてのことでしょう。日本を代表する室内アンサンブル合奏団のコンサートでは、ソリストに合奏をリードするぐらいの歌唱力が求められます。また、毎回このコンサートにはゲストにちなんだ副題が付けられていますが、今回は、ボーイ・ソプラノがゲストであることもあって、「天使の秘密」という副題が付けられていました。

プログラム
第1部
コレルリ: クリスマス協奏曲 op.6-8
フランク: 天使の糧 荘厳ミサ イ長調から ☆
モーツァルト: モテット『アヴェ・ヴェルム・コルプス(おお、まことのことからだよ)』 ニ長調 K618
クリスマスキャロル「鳥の歌」(スペイン・カタロニア民謡)
グノー=バッハ: アヴェ・マリア ☆
ラター: 『レクイエム』からピエ・イエス ☆
ブリッジ: クリスマス舞曲「ロジャード・カヴァリー卿」

第2部
ヴィヴァルディ: ヴァイオリン協奏曲『四季』から「冬」
『賛美歌』から第112番 もろびとこぞりて、第111番 神の御子は今宵しも ☆
J.L.ピアポント: ジングルベル ☆
テレマン: ヴァイオリン協奏曲 イ長調 「ひき蛙」から第1楽章 TWV51 A4
ブレイク: ウオーキング・イン・ジ・エア「スノーマン」から ☆
シークレット・ガーデン: ユー・レイズ・ミー・アップ

アンコール
ルロイ・アンダーソン:そりすべり
讃美歌 アメイジング グレース ☆
グル―バー:きよしこの夜 (☆)      (☆ 栗原一朗の独唱曲)

   安らぎの別世界

 400席ほどのホールは、ほぼ満席。この日は独唱者の位置から5m以内の至近距離の席で聴くことができました。ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロ・コントラバスという弦楽4部と電子オルガンの12人のアンサンブルが、定位置に着くと、うしくんとカエルくんが譜面台を持ってパペットマペットが登場。バロックなどの古楽は、東京ヴィヴァルディ合奏団のファンにはおなじみであっても、決して多いとは言えないクラシックファンの中でも限られた人にしか知られていませんので、パペットマペットの司会は、あえて無知な道化役に徹して、観客をリラックスさせて音楽を聴かせてくれました。いや、パペットマペットの起用は、クラシックファンのすそ野を広げるためでもあるでしょう。第1部の1曲目 コレルリの「クリスマス協奏曲」は、6つの楽章の流れを大きくつかんだ演奏を聴くことができました。続いて、聖衣に身を包んだ栗原一朗が登場。フランクの「天使の糧」の伴奏が始まると、弦楽器はすべてピチカート奏法で、歌い始めるとゆったりした美しい旋律の歌が浮き彫りにされ、幸福感が湧き上がってくるような気持ちになります。モーツァルトの「アヴェ・ヴェルム・コルプス」は、むしろこれまで合唱曲として聴くことが多かったので、合奏による演奏はデッサンになぞらえていえば、今まで地であったものが図になったようで新鮮な感じがしました。スペイン・カタロニア民謡の「鳥の歌」は、カザルスの名演で有名ですが、渡部宏のチェロ独奏は、深い音色で情感豊かな演奏を聴かせてくれました。グノー=バッハ「アヴェ・マリア」でも、柔らかく透明度の高い栗原一朗の声は、なだらかな弧を描くような響きで祈りを捧げていました。ラターの「ピエ・イエズ」は、次第に音階が上がっていって、最後の繊細な高音のピアニッシモは、まさに天に届くように響き、ボーイ・ソプラノだけが表現することのできる安らぎの世界を現出しました。最近ではウィーン少年合唱団でさえ世の流れに流されて、やたらと速い演奏になっているのに、ここだけは別世界。時間がゆっくりと流れていきます。第1部の最後の曲、ブリッジのクリスマス舞曲は、初めて聴く曲ですが、哀感あふれる曲で、このコンサート全体の雰囲気を高めてくれました。ここで、パペットマペットが栗原一朗にインタビュー。現在12歳であることや電車が好きであることなどプロフィールの一端がわかりました。でも、これが副題の「天使の秘密」ではないでしょう。

   ボーイ・ソプラノの運命と重ねて

 第2部は、パペットマペットが意外な所から姿を現して始まりました。第2部の1曲目は、バロックの中でもとびぬけて有名なヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲「四季」より「冬」。ヴィヴァルディの故郷で人生の多くの時を過ごしたであろうヴェネチアの冬がどれほど寒いのかはわかりませんが、アルプスおろしが吹き、雪が降り積もる亜寒帯に近い荒涼な風景を想像させました。ダイハツ・ムーヴのCMにも使われている曲もありましたが、廣岡克隆の緊張感のある鋭い演奏が心に残ります。ここで、白いタキシードに着替えた栗原一朗が登場。「もろびとこぞりて」「神の御子は今宵しも」「ジングルベル」といわゆるクリスマスソングを原曲と日本語訳の両方で歌いますが、讃美歌はもとよりポップス系の「ジングルベル」さえ歌い崩すこともなく、折り目正しい清澄な歌であるところが、栗原一朗の持ち味であり、このコンサートの雰囲気には似つかわしく感じられました。ここで、片腕を振り上げて「ヘイ!」なんてやったら、そこだけが突出して喜劇になってしまいます。お笑いの部分は、パペットマペットにお任せしましょう。と思っていると、パペットマペットのカエルくんを顕彰してか、「ひき蛙」と名付けられたテレマンのヴァイオリン協奏曲が。こういうプログラミングにも東京ヴィヴァルディ合奏団の創意工夫の跡を感じました。ところで、この日の白眉は、アニメ「スノーマン」から「ウォーキング・イン・ジ・エア」と、シークレット・ガーデンの「ユー・レイズ・ミー・アップ」でした。雪だるまと少年が手を取り合って空を飛びまわるが、翌朝目覚めたら雪だるまはとけて消えているという「スノーマン」の物語の雪だるまと、ボーイ・ソプラノというやがて消えていく声のはかなさを重ね合わせて、栗原一朗の哀愁あふれる歌を聴けば、せつないものを感じてしまいます。また、「ユー・レイズ・ミー・アップ」は、「ロンドンデリーの歌」の旋律をベースに制作されたと言いますが、哀感に満ちた旋律と「あなたが祈ってくれるから私は強くなれる」と元気を与える歌詞が不思議な融合をして、聴く人のその時の心境によって慰めや癒しだけでなく励ましや生きる勇気を与えてくれる歌にもなるのが魅力的です。「歌」は、歌い手の口を離れたとき、聴き手のものになります。歌を聴きながらこの歌が、かつて「白虎隊」のエンディングで使われていた意味を考えてみました。戊辰の役で生き残った白虎隊士にとって、これからさらに降りかかってくるであろう逆境の中で強く生きていくためには、生き残った人たちの励ましと共に亡くなった仲間たちの祈りが必要だという想いが込められているのではないだろうかと想いながら聴きました。リフレインで半音上げて歌うあたりから、この歌は一層心に迫るものになってきました。
 アンコールでは、東京ヴィヴァルディ合奏団も、むしろ軽快なルロイ・アンダーソンの「そりすべり」で観客をリラックスさせ、栗原一朗は、「アメイジング グレース」で、再び聖なる世界を再現しました。「きよしこの夜」は、みんな歌いましょうということでしたが、斉唱ではなくきれいな声で合唱に高める人たちがいても、もっと独唱をしんみりと聴きたいという気持ちで歌わないで聴いていました。昨日、豊麗なTOKYO FM 少年合唱団のコンサートを聴いた直後だけに、この日はそれとは全く対照的な繊細なボーイ・ソプラノのコンサートを聴いたという想いを抱きました。副題の「天使の秘密」とは、ボーイ・ソプラノの魅力とその運命ということではないでしょうか。そんなことを想いながら帰途につきました。

「音楽現代」’14 3月号



   ボーイ・ソプラノのコンサート評が、著名な音楽雑誌に掲載されることは、極めて稀なことです。ところが、「音楽現代」    ’14 3月号 142ページ(写真は136ページ)には、津嶋りえこが、平成25(2013)年12月23日にサントリーホールで行われた東京ヴィヴァルディ合奏団 第14回ファンタジックなクリスマス(独唱 栗原一朗)のコンサート評を書いています。限られた紙面の中で、栗原一朗の歌の本質について正鵠を射た批評を書いています。


戻る